AI創薬とは?AlphaFoldと抗体医薬品で学ぶ薬学の未来

CES薬剤師国試予備校|薬学の面白さを勉強につなげるコラム

「タンパク質の立体構造がわかれば、薬を設計できる?」AI創薬の進歩は、薬学部で学ぶ生化学・薬理学・薬剤学を新しい角度から照らしています。この記事では、AI創薬の最前線を、実際に出題された薬剤師国家試験の問題とつなげて紹介します。

この記事でわかること

  • 低分子医薬品と抗体医薬品の違い(大きさ・作り方・投与経路・標的)
  • AlphaFoldの役割と限界、AIとロボットによる「ラボ・イン・ザ・ループ」
  • 第110回・第109回薬剤師国家試験で実際に出題された抗体医薬品の問題
  • AI創薬を理解するために、大学のどの科目がどうつながるか

結論:AI創薬を理解する土台は、薬学部で学ぶタンパク質の構造、受容体と作用機序、薬物動態です。国試に出る抗体医薬品の知識は、最先端の創薬を理解する入口にもなります。

1.薬はどうやって生まれる?低分子からバイオ医薬品まで

薬の候補となる物質を見つけ、効き目と安全性を確かめ、臨床試験を経て承認に至るまでには長い年月と多くの工程があります。AIはこのうち、標的の探索や候補物質の設計・絞り込みといった前半の工程を中心に、時間と試行回数を減らす道具として使われ始めています。

新薬ができるまでの主な流れとAIの関わり病気に関わる標的分子の探索、候補物質の探索と設計、候補の最適化、非臨床試験、臨床試験、承認審査、市販後の安全対策という流れのうち、前半の探索・設計・最適化でAIの活用が進んでいることを示す図。標的標的分子の探索病気に関わるタンパク質などを見つける探索候補物質の探索・設計AIが構造予測や分子設計で候補を絞る最適化候補の最適化効き目・体内動態・安全性を高める非臨床非臨床試験細胞や動物で有効性・毒性を確かめる臨床臨床試験(治験)ヒトで有効性・安全性を段階的に確認承認承認審査 → 市販後審査を経て承認。発売後も安全性を監視AIで速くなっても、試験と審査の工程は省略されない
図1 新薬ができるまでの流れ。AIの活用は特に前半(色付き)で進んでいる

従来の低分子医薬品は化学合成で作られることが多く、比較的小さな分子が酵素や受容体などに作用します。一方、抗体医薬品はタンパク質からなる高分子医薬品で、特定の抗原を認識して結合します。両者の違いを整理すると、次のようになります。

低分子医薬品と抗体医薬品の比較低分子医薬品は分子量がおおむね数百と小さく化学合成で作られ経口投与が多く細胞内の標的にも届く。抗体医薬品は分子量約15万と大きく細胞培養で作られ注射で投与し主に細胞表面や細胞外の標的に結合する。低分子医薬品抗体医薬品分子の大きさ小さい(分子量はおおむね数百)大きい(IgGで分子量約15万)作り方化学合成細胞培養によるバイオ技術主な投与経路経口(内服)が多い注射(点滴静注・皮下注)標的細胞内の酵素・受容体にも届く主に細胞表面・細胞外の分子一般名の特徴さまざま語尾が「〜マブ」
図2 低分子医薬品と抗体医薬品の主な違い(代表的な特徴の比較)

ただし、抗体医薬品が正常細胞を一切傷つけないわけではありません。標的の発現状況や免疫への影響によって、感染症などの有害事象が生じることもあります。また、低分子医薬品も現在の創薬で重要な役割を担い続けており、どちらが優れているというより、標的や病気に合わせて使い分けられています。

2.AIは何を変える?AlphaFoldから実験の自動化へ

タンパク質はアミノ酸配列だけでなく、折りたたまれた立体構造によって機能が決まります。薬が標的にぴったり結合するかどうかは、この立体構造に左右されます。「鍵と鍵穴」のたとえで説明されることも多い関係です。

Google DeepMindが開発したAlphaFoldは、アミノ酸配列からタンパク質の立体構造を高い精度で予測できるようにし、構造予測を飛躍的に進歩させました。この業績により、開発者のデミス・ハサビス氏とジョン・ジャンパー氏は、タンパク質の設計に取り組んだデイヴィッド・ベイカー氏とともに、2024年のノーベル化学賞を受賞しています。2024年に発表されたAlphaFold 3は、タンパク質と低分子・核酸・抗体などとの複合体の構造予測にも対象を広げました。

ただし、構造予測は候補物質の探索や仮説づくりに役立つものの、予測された結合がそのままヒトでの有効性・安全性を保証するわけではありません。実験、毒性評価、臨床試験は引き続き不可欠です。

AIとロボットが回す「ラボ・イン・ザ・ループ」

さらに、AIが候補分子を設計し、ロボットが合成・測定を行い、得られた結果をAIが再学習して次の設計を改善する――という循環を自動で回す「ラボ・イン・ザ・ループ」も注目されています。人が一つずつ行っていた試行錯誤を高速化する仕組みです。

ラボ・イン・ザ・ループの仕組みAIが候補分子を設計し、ロボットが合成し、ロボットが性質や活性を測定し、そのデータをAIが学習して次の設計に生かすという4段階の循環。1. 設計AIが構造予測をもとに候補分子を設計2. 合成ロボットが候補を自動で合成3. 測定ロボットが活性・性質を自動で測定4. 学習結果をAIが学習し、次の設計を改善循環するほど設計の精度が上がる
図3 AI(設計・学習)とロボット(合成・測定)が実験を回し続ける

3.本当に国試に出ている!実際の過去問を見てみよう

抗体医薬品は、薬剤師国家試験でも繰り返し出題されています。以下は実際の出題回・問題番号を明示した紹介です。正式な問題文・選択肢・正答は厚生労働省の公開資料で確認してください。

実際の出題例①|第110回薬剤師国家試験・問40(必須問題・薬理)

HER2(ヒト上皮増殖因子受容体2型)と結合することにより、乳がん細胞の増殖を抑制するのはどれか。1つ選べ。

  1. エキセメスタン
  2. トラスツズマブ
  3. ベバシズマブ
  4. ダウノルビシン
  5. ブスルファン
正解と解説を見る

正解:2.トラスツズマブ

トラスツズマブはHER2を標的とするモノクローナル抗体です。ベバシズマブも抗体医薬品ですが、標的はVEGF(血管内皮増殖因子)で、腫瘍の血管新生を抑えます。エキセメスタンはアロマターゼ阻害薬、ダウノルビシンはアントラサイクリン系抗腫瘍抗生物質、ブスルファンはアルキル化薬です。「同じ抗体医薬品でも標的分子が異なる」ことがポイントです。

実際の出題例②|第109回薬剤師国家試験・問259(薬学実践問題・薬理)

クローン病の症例で、抗体医薬品の標的を説明できる?

問258・259は、クローン病の患者(25歳女性)の症例をもとにした連問です。メサラジンとアザチオプリンに加えてアダリムマブを使用していたものの効果が不十分で、ウステキヌマブの点滴静注に変更された経過が示されました。問259(薬理)では、クローン病の寛解導入・維持に使われる薬物の作用機序のうち、この患者にこれまで処方された薬物とは異なるものを2つ選ぶ形式で出題されています。

選択肢に示された作用機序 対応する薬の例 この患者への処方
α4β7インテグリンの阻害 ベドリズマブ なし(正答)
TNF-αの阻害 アダリムマブ あり
IL-12/23のp40サブユニットへの結合 ウステキヌマブ あり
チオプリン代謝物によるプリン合成阻害 アザチオプリン あり
グルココルチコイド受容体を介した抗炎症作用 副腎皮質ステロイド なし(正答)
正答と学習ポイントを見る

正答:1・5

症例の処方歴と、選択肢の作用機序を一つずつ対応させる問題です。抗体医薬品では「薬剤名 → 標的分子 → 作用 → 適応疾患・副作用」の順に整理しておくと、薬剤名が書かれていない選択肢でも判断できます。

ここで登場した抗体医薬品を、標的分子と主な適応疾患で整理しておきましょう。作用機序の覚え方は薬理の勉強法でも解説しています。

薬剤名 標的分子 主な適応疾患の例
トラスツズマブ HER2 HER2陽性の乳がん・胃がん
ベバシズマブ VEGF 大腸がん、非小細胞肺がんなど
アダリムマブ TNF-α 関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎など
ウステキヌマブ IL-12/23(p40) 乾癬、クローン病、潰瘍性大腸炎など
ベドリズマブ α4β7インテグリン 潰瘍性大腸炎、クローン病

適応疾患は代表例です。正確な効能・効果は各製品の添付文書(PMDA)で確認してください。

4.AI創薬を理解するために大学のどの科目が役立つ?

科目 AI創薬・抗体医薬品とのつながり
化学 候補分子の構造、官能基、立体化学、分子間相互作用
生物 タンパク質の構造、免疫、受容体、抗体の機能
薬理 HER2、VEGF、TNF-αなどの標的と作用機序
薬剤 薬物動態、分布、消失、バイオ医薬品の特徴
病態・薬物治療 がん、炎症性腸疾患と治療薬の選択

例えば「なぜトラスツズマブはHER2を狙うのか」と考えるだけで、生物の受容体、薬理の作用機序、病態の乳がん治療が一つにつながります。科目どうしをつなぐ勉強の進め方は、薬学部2年生の勉強法でも紹介しています。国試対策は、最先端の薬学を理解する入口にもなるのです。

5.日本の創薬研究と薬学生が担う未来

日本には、化学・生命科学の基礎研究の蓄積と、新薬を生み出してきた製薬企業の力があります。一方で、AIの活用、大学の研究成果をすばやく実用化するスタートアップの育成、大学・企業・投資家の連携は、今後の重要な課題とされています。

これからの創薬は、研究者、薬剤師、データサイエンティストなどが協力して新しい医療を形にしていく時代です。薬学は、化学・生物・AI・ビジネスが交差する、世界を大きく変えうる学問だといえます。

よくある質問5問

Q1. AIがあれば薬剤師は不要になりますか?

AIは情報整理や候補探索を支援しますが、患者の状態に応じた薬学的判断、安全性の確認、服薬支援には専門家としての責任が伴います。AIの出力を確かめ、患者に合わせて使いこなす力がむしろ求められます。

Q2. AlphaFoldそのものが新薬を作るのですか?

いいえ。AlphaFoldは主にタンパク質などの立体構造を予測する技術です。新薬の開発には、候補物質の合成・評価、非臨床試験、臨床試験、承認審査など多くの工程が必要です。

Q3. AI創薬は国試に出題されていますか?

AI創薬という技術名の直接の出題と、抗体・受容体・作用機序などの関連知識の出題は区別が必要です。この記事で紹介した第110回問40と第109回問259は、後者の出題例です。

Q4. 抗体医薬品の名前はなぜ「〜マブ」なのですか?

モノクローナル抗体(monoclonal antibody)の一般名には、語尾に「-mab(マブ)」を付けるルールが使われてきました。なお、WHOは2022年に新しい命名ルールを公表しており、今後命名される抗体では語尾が変わります。

Q5. 抗体医薬品は国試対策としてどう覚えればよいですか?

「薬剤名 → 標的分子 → 作用 → 主な適応疾患・副作用」の順に一つずつつなげて整理します。同じ疾患に使う抗体を標的の違いで比較すると、丸暗記に頼らずに選択肢を判断しやすくなります。

薬学の「わかった!」を、進級・CBT・国試の力に

CES薬剤師国試予備校では、薬剤師・専門講師による完全マンツーマン指導と、独自の学習管理ツールを使った計画・進捗管理で、診断→選択→計画→実行→確認→改善の「Act個別学習メソッド」に沿って学習を支えます。福岡校への通学と双方向オンライン授業から選べ、全国から受講できます。公認心理師による学習カウンセリングで、不安や焦りが続くときの相談もできます。化学・生物の基礎から薬理・薬剤・病態まで、「暗記だけではつながらない知識」を一緒に整理します。

相談の際は、学年、目標の試験日、成績表、つまずいた問題をお知らせください。

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参考文献・関連資料

執筆・編集:CES薬剤師国試予備校 講師チーム

監修:岩崎 陽一(株式会社アクト 代表取締役)。医療系の受験・進級・国家試験対策の指導に30年以上携わり、CES薬剤師国試予備校をはじめとする医療系予備校を運営。

最終更新日:2026年11月5日(情報確認日:同日)。国試の設問は学習用に紹介したもので、正式な問題文・正答は厚生労働省の公開資料をご確認ください。運営:株式会社アクト