薬学部進級のために〜文部科学省のレポート分析から見えること
6年制薬学部教育の質保証に関する文部科学省の報告書(令和4年8月)を分析すると、以下の主要な点が浮かび上がります。また、近年の薬学科の募集停止や定員割れの深刻化といった現状を踏まえると、薬学教育の質には一層の課題が浮き彫りとなっています。
1. 薬学部教育の現状と課題
平成18年度に開始された6年制薬学教育は、医療現場のニーズに応じた人材育成を目指してきました。しかし、志願者数の減少が進む中で、姫路獨協大学や医療創生大学の薬学科募集停止が象徴するように、全国的に薬学部の定員割れが深刻化しています。
定員充足率が80%以下の大学が約3割に達し、一部では「ボーダーフリー」と呼ばれるような誰でも入学可能な状態となりつつあります。この結果、入学者の学力が極めて低くなる懸念が広がっており、標準修業年限内(6年)での国家試験合格率にも大きな影響を及ぼしています。大学間の合格率のばらつき(約18%~85%:令和2年度)はその一例です。
2. 入学者選抜と定員管理の重要性
志願者数減少による「ボーダーフリー化」が進む中で、薬学を学ぶために必要な基礎学力や医療人としての資質を持つ学生を確保することが喫緊の課題です。特に、医療現場では高度な専門知識と倫理観が求められるため、アドミッション・ポリシーの見直しや、入学者選抜における適性評価の強化が必要です。
さらに、薬剤師の供給過剰や地域偏在の問題を踏まえ、薬学部・学科の新設や定員増は厳しく制限されています。これにより、地域の医療ニーズを反映した定員設定が求められており、大学と地方自治体の連携が不可欠です。
3. 教学マネジメントの確立
教育課程の充実と質向上
薬学教育モデル・コアカリキュラムを基にした教育課程の再編が必要とされています。在宅医療や地域医療に対応した実践的なプログラムを整備することが重要であり、学力の低い学生に対しても基礎力を補う教育体制の強化が求められます。
情報公開と進路指導の充実
大学は、国家試験合格率や卒業率、各年次の留年率などを積極的に公開し、受験生や保護者に教育の質を示す責任があります。また、奨学金制度や地方自治体との連携を通じて、学生の進路支援を強化する必要があります。
IR(インスティテューショナル・リサーチ)の活用
教学IRに基づくデータ分析を活用し、課題抽出と教育改善を行う仕組みを構築することが求められます。例えば、学力の低い入学者に対して、早期に学修指導を行うなどの対策が必要です。
4. 内部質保証と第三者評価の重要性
薬学教育評価機構を通じた第三者評価は、教育の質向上に不可欠な仕組みです。内部質保証システムを活用し、大学間での情報共有やベストプラクティスの普及を進めることで、全体的な質向上を図ることが期待されています。
5. 入学者学力低下の影響と今後の展望
志願者数の減少に伴う学力低下は、薬学教育全体の質に大きな影響を及ぼします。特に、ボーダーフリー状態の大学では以下のような課題が顕著です。
•卒業率や国家試験合格率の低下
学力不足の学生が在学期間中に必要な知識や技能を十分に習得できず、卒業後の薬剤師としての質にも影響が及ぶ可能性があります。
•医療現場の信頼低下
現場での実務能力が不十分な人材が増加すれば、医療従事者全体の信頼低下につながるリスクがあります。
こうした課題を克服するためには、入学者選抜基準の厳格化や基礎学力補完のための特別プログラムの導入、さらには地域医療に特化した教育カリキュラムの充実が不可欠です。
まとめ
薬学教育の質向上には、大学の入学者選抜や定員管理、教育課程の見直し、進路指導の強化、そして内部質保証と第三者評価の活用が求められます。
また、ボーダーフリー化による学力低下への対策として、基礎学力を強化するプログラムや入学後のフォロー体制を充実させることで、質の高い薬剤師を育成し、医療現場のニーズに応え続けることが重要です。今後は、大学・自治体・行政が一体となり、質の高い薬学教育の維持・発展を目指すことが求められます。
CES講師:古賀 智久 先生
CES医歯薬学部にて、基礎医学全般を担当。
「わかりやすく親身な指導」をモットーに、学生一人ひとりに寄り添った教育を実践。その結果、多くの国試合格者を輩出しています。基礎医学の重要性を理解し、得点源とするためのサポートを行います。
