開業薬剤師という選択肢:独立の可能性と診療科目ごとの収益イメージ

正直に言うと、「開業薬剤師」というテーマは薬学生には少し早い話かもしれません。
ただ、あえて”先のゴール”をざっくりでもイメージしておくと、「そこに至るまでどんなキャリアを積めばいいか」が逆算しやすくなります。
将来いつか、自分の薬局を持ってみたい、会社に完全に依存しない生き方も面白そうだ、と少しでも感じるなら、今のうちに「開業ってどんな世界なのか」を軽く覗いておくのは十分意味があります。
「開局」と”店舗を持たない開業”は別物
薬剤師の「開業」と聞いて真っ先に浮かぶのは、調剤薬局を自分で立ち上げる「開局」だと思います。物件を借りて内装を整え、調剤室・待合室・在庫・機器・レセコンや電子薬歴を導入し、保険薬局として指定を受けて、近隣の医療機関から処方箋を受ける──まさに「自分の薬局」を持つイメージです。
家賃や人件費、在庫仕入れ、システム費用、銀行からの借入金の返済まで、すべて自分の判断と責任で回していくことになります。「雇われの薬剤師」から「経営者」に軸足が移る瞬間です。
店舗を持たない”個人事業型の開業”も増加
一方で、最近増えているのが”店舗を持たない開業”です。これは、薬局を構えるのではなく、薬剤師としての専門性を使って、コンサルティング、薬機法チェックや広告監修、Webメディアの執筆・監修、セミナーや企業研修の講師、オンライン服薬指導や相談などを組み合わせて、個人事業主として働くスタイルです。
こちらは初期投資が小さい代わりに、「自分で案件を取りに行く」「複数の収入源を組み合わせる」という発想が必要になります。どちらにしても、「会社に雇ってもらう」立場から「自分で仕事と収入を作る」立場へと変わるという点は共通しています。
診療科目ごとの収益モデルをざっくり知っておく
開局を考える上では、「どんな診療科が近くにあるか」で収益構造がかなり変わります。細かい数字は地域や保険制度改定の影響もあるのでここでは触れませんが、「収入は処方箋枚数 × 1枚あたりの単価」で決まる、というイメージは持っておくと良いです。単価は「処方日数」「処方される薬の種類・点数」「加算の有無」などで変わります。
内科・循環器・糖尿病クリニックの門前
高血圧・糖尿病・高脂血症といった慢性疾患が多く、長期処方も出やすいため、1枚あたりの単価はそこそこ高く、通院も定期的です。その分、患者さんが他院へ移ると一気に処方箋が減るリスクもありますが、「安定したストック型の売上」が見込みやすい診療科です。
小児科の門前
季節変動が大きいのが特徴です。風邪やインフルエンザのシーズンには処方箋が一気に増えますが、オフシーズンはかなり落ち着きます。1枚あたりの薬剤点数は高くなりにくい一方、患者数で勝負するイメージで、繁忙期と閑散期のメリハリがはっきりします。子ども好きな薬剤師にはやりがいのある門前ですが、売上の波をどうならすかという経営の工夫が必要です。
整形外科の門前
湿布薬や鎮痛薬、骨粗鬆症治療薬などが多く、処方日数が長めになることも多いため、1枚あたりの単価は比較的高くなりやすい診療科です。慢性痛や高齢者の患者さんが多く、定期的な通院が続きやすいので、「単価も枚数もある程度安定した門前」を作りやすい分野といえます。
耳鼻科・皮膚科の門前
季節要因の影響を強く受けるという点で小児科と似ています。アレルギー性鼻炎、花粉症、アトピー性皮膚炎、感染症など、季節ごとにピークがあり、短期処方も多いため単価はそこまで上がりにくいことが多いですが、周辺の人口密度や競合状況によっては十分な枚数を確保できることもあります。
精神科・心療内科の門前
抗うつ薬・抗不安薬・抗精神病薬・睡眠薬など、長期処方で継続的な服薬が必要な薬が中心です。処方箋枚数の絶対数はそこまで多くなくても、処方日数が長めなことが多いので1枚あたりの単価は比較的高くなりやすく、患者さんの継続率も高い傾向があります。ただし、服薬指導には時間がかかり、プライバシー配慮や心理的ケアも重要になるため、経営的な視点と同時に専門的な対応力も求められます。
実際の経営では、こうした診療科の特徴を組み合わせて、「どの門前なら自分がやりたい医療とビジネスとしての成り立ちのバランスが良いか」を考える必要があります。
経営モデルとリスクをどう見るか
薬局開業のビジネスモデルはシンプルに見えて、実際にはかなり変動要因が多い世界です。
売上は処方箋枚数と単価に左右されますが、その元になるのは「近隣のクリニックや病院の診療状況」です。クリニックが移転したり閉院したり、新しい医療モールができたり、大手チェーン薬局が近くに出店したりすると、その影響を強く受けます。
さらに、調剤報酬の改定やジェネリック比率、後発品調剤体制加算、地域支援体制加算などの制度の変化も、収益構造をじわじわ変えていきます。長く生き残る薬局ほど、「制度が変わったときにどう動くか」「ひとつの診療科・ひとつの医療機関に依存しすぎないか」を意識していることが多いです。
店舗を持たない開業のリスク
一方、店舗を持たない開業型は、固定費が小さい分、制度・立地・処方箋枚数といった外部要因の影響は少なくなります。その代わり、「案件が急に減る」「単価の交渉を自分でやらないといけない」といった別のリスクがあります。収入が不安定になりやすい分、非常勤で薬局・病院勤務を続けながら、徐々にコンサル・執筆・講師の比重を増やしていく”ハイブリッド型”で移行する人も多いです。
開業に向けて必要なスキル・人脈・マネジメント力
将来の開業を視野に入れるなら、「薬の知識」だけでは明らかに足りません。
スタッフを雇うなら、人の採用・育成・評価・シフト管理といったマネジメント能力が求められます。数字を扱うのが苦手でも、売上・粗利・固定費・変動費といった基本的なお金の流れは最低限理解しておく必要があります。
また、医師・税理士・社労士・金融機関・同業者など、周囲とのネットワークも大きな武器になります。開業は一人でなんとかするものではなく、「相談できる相手がどれだけいるか」で難易度が変わってきます。
もうひとつ大事なのが、「自分で決める癖」を若いうちから少しずつ身につけておくことです。
どんな働き方をしたいのか、どんな患者さんと関わりたいのか、どの診療科に興味があるのか。就職・転職・資格取得・勉強会の参加など、目の前の選択をするときに、「将来こんな働き方もアリかもな」という仮のゴールを持っていると、選び方が変わってきます。
最後に
学生の段階で開業を決める必要はまったくありませんが、「開業薬剤師というコマも、将来の選択肢の一つとして持っておく」ことは、キャリア設計にとってプラスに働くことが多いはずです。
CES薬剤師国試予備校 講師
アメリカの大学・大学院を卒業後、再受験にて薬学部に入学。再試・留年はなく、ストレートで国家試験にも合格。 卒業後は薬局薬剤師を経て、現在はCES薬剤師国家試験予備校の講師。 薬剤師国家試験のゴロサイト『ゴロナビ〜薬剤師国家試験に勝つ〜』を運営中
