【国家試験講評】第106回薬剤師国家試験
❏総評
全体的な難易度は標準的。過去問を中心とした内容だった。
物・化・生は、例年通り難易度の高い問題が多くみられ、特に近年の国家試験では、薬剤の分野の難易度が高いことが特徴的である。
薬理の範囲では、理論の問題から積極的に病態へつながるような複合問題が多くみられ、より実践的な知識を意識した問題作りがなされている。しかし、内容としては標準から平易の問題が多く、問題なく対応できる範囲の出題であった。
病態・薬物治療では、遺伝子治療にまつわる問題が多く出題されていた。内容を詳しく問う問題というよりは、最近の治療のトレンドを問うような問題であった。こちらは、予備知識がゼロの状態だと解答に悩む問題も散見された。
実務は例年通りではあるが、より臨床的な問題の出題が見られている。臨床現場で使われるような言葉・略号とその内容が出題されていた。
問40
この問題はコリンエステラーゼ(ChE)がアセチルコリンをコリンと酢酸に分解することを踏まえて、アセチルコリンの構造を選べばよい。
解答:4
より詳しく見ていく。まずコリンエステラーゼの構造で考えるべきは、酵素の活性部位のセリン残基と陰性部である。
5の構造は、正電荷を持つ4級アミンを持たないので、陰性部との結合が弱く、酵素と基質のアフィニティーが弱いので不適。
1,2の構造は、カルボニル炭素に結合しているアミノ基の影響で、カルボニル炭素の求電子性が低くなっているので3,4の構造の方が求核攻撃を受けやすい。
3,4の構造を比較する。ギブスエネルギー:ΔG=ΔH-TΔSを考える。エンタルピーを比較する。四面体型中間体から構造変化した後の化合物をそれぞれ基質側と陰イオン側とすると、3,4の基質側のエンタルピーは基質そのものが大きな分子なために、殆ど変わらない。陰イオン側のエンタルピーを比較すると、4の方が3より大きい。
よってギブスエネルギーを比較すると4のコリン作動薬の方が分解された後安定に存在できる。
問46
1-コンパートメントモデルには吸収過程があるものとないものがある。この両方を考える。
薬物投与量をX0、吸収速度定数ka、消失速度定数ke、血中薬物量X、血中薬物濃度C、
分布容積Vd、バイオアベイラビリティーFとする。
・吸収過程がない場合(静脈内投与)
消失速度定数は排泄される部位(肝臓、腎臓など)の機能に依存するため、消失速度定数は投与量に依存しない。
消失半減期はt1/2=ln2/ke
消失速度は
-dX/dt=keX
=keX₀/Vd
全身クリアランスをCLtとすると
CLt=dX/dt/C
=keVd
最高血中濃度到達時間はtmax=0
・吸収過程がある場合
消失速度定数は排泄される部位(肝臓、腎臓など)の機能に依存するため、消失速度定数は投与量に依存しない。
消失半減期はt1/2=ln2/ke
消失速度は
-dX/dt=keX-kaX0
X=ka*F*X0/(ka-ke)*(e-ket-e-kat)
全身クリアランスをCLtとすると
CLt=dx/dt/C
=ka*F/Vd/(ka-ke) *(e-ket-e-kat)
最後に最高血中濃度到達時間tmaxを求める。
X=ka*F* X0/(ka-ke)*(e-ket-e-kat)
両辺をtで微分すると
dX/dt=ka*F* X0/(ka-ke)*(-kee-ket+kae-kat)
dX/dt=0のとき
-kee-ketmax+kae-katmax=0
kee-ketmax=kae-katmax
-ketmax+katmax=ln(ka/ke)
tmax=ln(ka/ke)/(ka-ke)
解答:2
❏理論問題
問111
ヒトの副交感神経節後繊維終末は上図のとおりである。(※①コリン ②ACh ③電位依存性Ca2+ ④ChE)
人の自律神経は次のように分類できる。
●交感神経
節前線維から節後線維への伝達→ACh
節後線維から効果器への伝達→NA
●副交感神経
節前線維から節後線維への伝達→ACh
節後線維から効果器への伝達→ACh
1)~モノアミントランスポーターによって、~
「コリントランスポーター」によりコリンの取り込みが行われる
2)正解
神経伝達物質はAChで、構造式は次の通り。
3)正解
心臓の洞房結節細胞はM2受容体が発現している。M2受容体がAChと結合すると、Giタンパク質と共役してcAMPの産生を抑制し、K⁺チャネルを開口して過分極させる働きを持つ。これにより抑制性の制御を行っている。
4)~Ca²⁺チャネル内蔵型受容体で、~
神経終末に存在するのはCa²⁺チャネルで、受容体ではない。Ca2+チャネルは電位依存性である。活動電位がシナプス前終末まで伝達すると、チャネルが開口し、Ca2+が流入する。
5)基質特異性は膜タンパク質④の方が高い
血漿中には肝細胞が産生したChEが存在し、これはブチルコリンをコリンと有機酸に分解する。
問157
関節リウマチ:関節が炎症を起こし、軟骨や骨が破壊されて関節の機能が損なわれ、放っておくと関節が変形してしまう病気。
再燃したため、治療薬での症状の抑制が効かなくなった状態である。
→MMP-3(炎症性のサイトカインの刺激を受けて、関節滑膜細胞や、軟骨細胞から産生される蛋白分解酵素で、関節軟骨破壊に関与)と白血球数(炎症時に活性化するリンパ球の一つ)が増加している。
よって答えは4,5である。
❏実践問題
問196
この妊娠検査薬は抗体標識である。抗体標識を考えるうえで重要なのは、その抗体のホストの動物とFab領域で特異的に結合する抗原を持つ動物の種類を把握することである。
図の抗体のホストの動物はA:マウス、B:マウス、C:ウサギである。図の抗体A,BはFab領域で尿のhCGと結合しているので、抗体A,Bは抗hCG抗体である。抗体CはFab領域で抗体Aと結合しているので、抗体Cは抗マウス抗体である。ゆえに3.の文章は間違いである。
問217
パーキンソン病とは、錐体外路神経路に関連する運動障害のことである。中脳の黒質緻密部から大脳基底核を構成する線条体へ投射する黒質-線条体系ドパミン作動性神経の変性(抑制制御の減弱)が起こっている。病因は今だ不明である。
1)正解
2)「~アセチルコリン放出が減少した。」
黒質緻密部からのDAの放出が減少→D₂受容体の刺激が減少→ACh作動性神経が活性化→ACh放出の増加
3)「線条体から放出されたドパミンの分解が低下した」
線条体の神経はGABA作動性神経より間違い。
4)正解
5)「末梢血液中のドパ脱炭酸酵素活性が低下した」
ドパミンの脳への移行率は1%以下より、末梢での作用が減少すると相対的に脳へ移行するドパミンが増加する。パーキンソン症状が起きているときは脳のドパミンが枯渇しているので、5.の文章は矛盾している。
以上、今回の国家試験より、合格基準が絶対基準から相対基準への変更があったが、内容としては標準的。実務・実践分野のより臨床的な内容の出題は、例年増えつつあるが、想定を超えるものではなく、難易度も標準的。今後は、より暗記科目と思考力を問われる問題のメリハリをつけた勉強が必要になってくるが、過去問を中心とした対策の重要性は変わらないと改めて評価し、総評とする。